misuzu kaneko金子みすゞ

今週の詩

うらない
                  金子みすゞ
夕やけ、
小やけ、
赤い草履(ぞんぞ)
飛ばそ。

赤い草履(ぞんぞ)
裏(うら)だ、
も一度
飛ばそ。


出るまで、
何べんでも
飛ばそ。

夕やけ、
小やけ、
雲まで
飛ばそ。
ちひろのコメント
今年の夏至は6月21日。夕焼けの美しい時間もゆっくりと流れます。そんな中で、子どもたちが遊ぶ光景。思い浮かべるだけでなんとも美しく、ノスタルジックな思いになります。こうして、いつまでも時間を忘れて遊ぶ子どもたちが、安心して外で遊べる世の中であってほしいですね。
2025/06/09の詩

さみしい王女
                  金子みすゞ
つよい王子にすくわれて、
城(しろ)へかえった、おひめさま。

城はむかしの城だけど、
薔薇(ばら)もかわらず咲(さ)くけれど、

なぜかさみしいおひめさま、
きょうもお空を眺(なが)めてた。

   (魔法(まほう)つかいはこわいけど、
   あのはてしないあお空を、
   白くかがやく翅(はね)のべて、
   はるかに遠く旅してた、
   小鳥のころがなつかしい。)

街(まち)の上には花が飛び、
城に宴(うたげ)はまだつづく。
それもさみしいおひめさま、
ひとり日暮(ひぐれ)の花園で、
真紅(まっか)な薔薇(ばら)は見も向かず、
お空ばかりを眺めてた。
ちひろのコメント
おとぎ話のお姫さま、魔法にかかっていた頃のほうがよかったと、懐かしく思っています。いろんな感じ方があるものです。みすゞさんの心にかかると、めでたしめでたしなストーリーにも、こんな一面がある。面白い視点ですね。
2025/06/02の詩

象の鼻
                  金子みすゞ
むうく、むうく
山の上、
巨(おお)きな象が白い。

むうく、むうく
空に、
象の鼻が伸(の)びる。
――水いろの空に、
  失(な)くした牙(きば)が
  しィろくほそく。

むうく、むうく
鼻が、
伸びても伸びても遠い。

とどかぬ
ままに、
灰(はい)いろに暮(く)れて、
――しずかな空に、
  とれない牙(きば)は、
  いよいよしろく。
ちひろのコメント
年々、入道雲が現れる時期が早くなってきていると感じますが、雲の形は、私たちをいろんな世界へ導きますね。どんどん変わる雲の形に、いろんな想像が膨らみます。夏の雲は、楽しい世界が広がりますね。
2025/05/26の詩

御本(ごほん)
                  金子みすゞ
さびしいときは、父さんの、
お留守(るす)の部屋で、本棚(ほんだな)の、
御本の背(せな)の金文字を、
じっと眺(なが)めて立ってるの。

ときにゃ、こっそり背(せ)のびして、
重たい御本をぬき出して、
人形のように、抱(だ)っこして、
明るいお縁(えん)へ出てゆくの。

なかは横文字ばかしなの、
カナはひとつもないけれど、
もようみたいで、きれいなの。
それに、ふしぎな香(か)がするの。

お指なめなめ、つぎつぎに、
しろい、頁(ペイジ)をくりながら、
そこにかかれたお噺(はなし)を、
つぎからつぎへとこさえるの。

若葉(わかば)のかげの文字(もじ)にさす、
五月のお縁(えん)で父さんの、
大きな御本よむことが、
私(わたし)ほんとに好きなのよ。
ちひろのコメント
5月の爽やかな風が流れる縁側で、子どもには難しい本を広げて、読めないけれど空想で楽しんでいる世界。一人の世界。いい季節ですね。昔の家には、こうした心の旅も出来るような、そんな余白のような縁側がありました。懐かしいです。
2025/05/19の詩

                  金子みすゞ
空のあかるい
日のくれは、
いつも遠くで
声がする。

かごめかなんか
してるよな。
それとも
波の音のよな。
やっぱり
子供(こども)の声のよな。

なにかひもじい
日のくれは、
いつもとおくで
声がする。
ちひろのコメント
明るい日の暮れの切なさ、なにかひもじいという表現がまた面白いですが、その遠くに溶けるような思い、なんだかいいですね。おぼろげな中に何かを感じる、その遠い感覚。なぜだか、どこか好きな、そんな感覚です。このあやふやな感情。全て割り切れない、はっきりしない、ということも、大切な感覚に思います。
2025/05/12の詩

「金子みすゞ童謡全集」(JULA出版局)より

JULA出版局

金子みすゞの詩、写真は、金子みすゞ著作保存会の了承を得て掲載しています。
転載される場合は、必ず「金子みすゞ著作保存会」の許可を得てください。
連絡先:〒112-0001 東京都文京区白山3-4-15 内田ハウス1F JULA出版局内
TEL:03-3818-0791 FAX:03-3818-0796

金子みすゞプロフィール

金子みすゞ

 『赤い鳥』、『金の船』、『童話』などの童話童謡雑誌が次々と創刊され、隆盛を極めていた大正時代末期。そのなかで彗星のごとく現れ、ひときわ光を放っていたのが童謡詩人・金子みすゞです。
 金子みすゞ(本名テル)は、明治36年大津郡仙崎村(現在の長門市仙崎)に生まれました。成績は優秀、おとなしく、読書が好きでだれにでも優しい人であったといいます。

 そんな彼女が童謡を書き始めたのは、20歳の頃からでした。4つの雑誌に投稿した作品が、そのすべてに掲載されるという鮮烈なデビューを飾ったみすゞは、『童話』の選者であった西條八十に「若き童謡詩人の中の巨星」と賞賛されるなど、めざましい活躍をみせていきました。
 ところが、その生涯は決して明るいものではありませんでした。23歳で結婚したものの、文学に理解のない夫から詩作を禁じられてしまい、さらには病気、 離婚と苦しみが続きました。ついには、前夫から最愛の娘を奪われないために自死の道を選び、26歳という若さでこの世を去ってしまいます。こうして彼女の 残した作品は散逸し、いつしか幻の童謡詩人と語り継がれるばかりとなってしまうのです。

 それから50余年。長い年月埋もれていたみすゞの作品は、児童文学者の矢崎節夫氏(現金子みすゞ記念館館長)の執念ともいえる熱意により再び世に送り出され、今では小学校「国語」全社の教科書に掲載されるようになりました。
 天才童謡詩人、金子みすゞ。自然の風景をやさしく見つめ、優しさにつらぬかれた彼女の作品の数々は、21世紀を生きる私たちに大切なメッセージを伝え続けています。

(金子みすゞ記念館ホームページより)

金子みすゞ記念館

みすゞさんとの出会い

2003年(平成15年)1月21日、私は東京から山口へ帰郷しました。
作曲家活動の中で、自分の音楽の方向性を見失い、もう一度自分を見つめなおそうと思ってのことでした。
偶然にもその年は、みすゞさん生誕100年の年でした。
私が12歳の時に、父が買っていた1冊の詩集「わたしと小鳥とすずと」(金子みすゞ童謡詩集)を初めて手にとり、ページをめくりました。

ズキンズキンと心臓が鳴るのがわかりました。
「これだ…ここに私が歌いたい心がある…」

みすゞさんは、命あるものなきもの、見えるもの見えないもの、
全ての存在へ優しく深い眼差しを向けている…。
その世界の中で私たちは、尊い命を与えられて生きている。
命、絆、ご縁、全てのつながりに感謝をし、今を自分らしく生きて行く。
そのためのメッセージが、やわらかく、眩しく、描かれている。

「この詩に曲をつけて歌いたい」
この出合いの瞬間から、私は再び音楽の道を歩み始めました。

みすゞさんが伝えてくれる大切な心を、
ずっとずっと、歌い語っていきたい。

こだまし合う、一人として。

ちひろ

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